BUSINESS JOURNAL

内部監査部が機能していない -不正もサイバー攻撃も、見えないところで進みます-

内部監査担当者や、サイバーセキュリティ人材の採用ポジションが、半年、1年と埋まらないまま塩漬けになっている――こうしたご相談を、上場準備企業やグローバル展開中の企業から数多くいただきます。

しかし、この問題の本質は「採用が難しい」ことそのものではありません。内部監査部やセキュリティ機能が実質的に機能していない状態が続くと、企業は不祥事やガバナンス不全という、より大きなリスクにさらされます。本記事では、内部監査・セキュリティ機能が機能不全に陥る構造と、企業が取るべき打ち手を、採用・権限設計の両面から解説します。


1. 「内部監査部が機能していない」と、何が起きるか

内部監査やセキュリティ機能が形骸化すると、不祥事の温床になります。経営の意思決定や現場の業務プロセスに対して、独立した立場から指摘・提言ができる機能が働かなくなるため、内部統制全般が弱い状態のまま放置されてしまうのです。

2025年から2026年にかけて、会計不正や情報の虚偽記載・隠蔽をめぐる企業の不祥事報道が相次いだことは、記憶に新しいところです。ある大手電気部品メーカーでは、グループ会社の会計処理をめぐる不正が発覚し、第三者委員会の報告書で複数の構造的な原因が指摘されました。また、ある大手電力会社では、安全性に関わる資料を巡って虚偽の説明や隠蔽行為があったとする調査結果が公表され、「再稼働への重圧が不正を正当化させていた」という趣旨の指摘がなされています。企業名はあえて伏せますが、いずれも報道をご覧になった方は多いのではないでしょうか。

セキュリティの側でも、構図は同じです。国内企業を標的にしたランサムウェア被害や、取引先・委託先を経由したサプライチェーン攻撃の報道は後を絶ちません。インシデントが起きてから「なぜもっと早く異常を検知できなかったのか」「なぜ経営層に正しく情報が上がっていなかったのか」が問われるケースが大半で、これもまた、平時から独立した立場で指摘・提言できる機能が働いていなかったことの表れです。

これらに共通するのは、問題が起きてから「なぜ内部監査やガバナンス機能が事前に気づけなかったのか」が問われるという構図です。内部監査・セキュリティ人材の採用ポジションが埋まらない状態を放置することは、単なる欠員の問題ではなく、こうした事態への備えが手薄なまま経営を続けていることを意味します。


2. なぜ、内部監査・セキュリティが機能しないのか

実際にご相談をいただく企業を拝見すると、機能不全の原因は大きく3つに整理できます。

2-1. 原因A:社内の位置付けが低く、独立性・専門性を発揮できない

よくある状態
– 求人票や社内の役割定義が「規程に基づき監査を実施」といった業務列挙にとどまり、裁量や影響力が伝わらない
– セキュリティ人材の役割が、インシデント対応の”守り”の側面ばかりに限定されている
– 経営層や事業部門との距離感(独立した立場なのか、事業側に近い立場なのか)が曖昧なまま運用されている
– 内部監査部門が「総務や経理の片手間業務」のような位置付けで、専任者が置かれていない

見直しのポイント
内部監査もセキュリティも、本来は経営に直結する意思決定に関与できるポジションです。「規程どおりに実施する仕事」ではなく、「経営の意思決定に材料を提供し、事業を守りながら成長させる仕事」として位置づけ直すことが出発点になります。

2-2. 原因B:ベテラン中心で若手が育たず、そもそも採用もできない

よくある状態
– ベテラン社員が中心のまま若手が配属されず、次世代の専門人材が社内に育っていない
– IT系の人材紹介会社に依頼してもセキュリティ「専任」の候補者に出会えず、管理部門向けの紹介会社に依頼しても内部監査の実務経験者は少ない
– 自社の採用サイトでの募集だけに頼っており、副業・業務委託や他社での兼務経験がある候補者を検討の対象外にしてしまっている
– 内部監査・セキュリティ専任ポジションの採用実績が少なく、社内に報酬相場の知見がないため、一般的な管理部門やIT部門の等級表をそのまま当てはめてしまい、市場水準と乖離する
– 公認内部監査人や情報セキュリティ関連資格をどう評価に反映するかが定まっていない

見直しのポイント
内部監査もセキュリティ人材も、一般的な職種カテゴリの「隙間」に位置する人材です。ITとガバナンス、会計と技術など、複数の領域にまたがる経験を持つ候補者に強い、専門特化型のチャネルを併用し、正社員採用に固執せず業務委託やアドバイザリー契約から関与度を深めていく選択肢も、母集団を広げる現実的な手段になります。あわせて、外部の市場相場を早い段階で把握し、自社の等級制度をそのまま適用しないことも重要です。

2-3. 原因C:監査部長・セキュリティ責任者が、経営上層部に物を言えない

よくある状態
– 監査対象となる部門の責任者よりも、内部監査部門の報告ラインが下位に位置づけられている
– セキュリティ責任者が、インシデント対応の権限を現場の合意なしには発動できない設計になっている
– 経営層自身が、内部監査・セキュリティ機能に何を期待するのかを言語化できておらず、現場に丸投げになっている
– 監査で指摘した事項が、対象部門の反発ひとつで骨抜きにされてしまう社内力学がある

見直しのポイント
内部監査であれば経営層への直接報告ライン、セキュリティであれば意思決定に関与できる立場を、採用時の説明だけでなく、実際の権限として設計しておく必要があります。ここが伴わないと、専門人材ほど早い段階で見切りをつけてしまいます。


3. 対策:ガバナンス抜本改善と、採用・権限設計の見直し

上記3つの原因は、いずれも小手先の対応では解消しません。求人票の文言を変える、エージェントを増やす、といった採用面の改善だけでは、原因Aや原因Cで挙げた「位置付け」「権限」の問題は解決しないためです。

求人票を再設計する際は、「このポジションが経営のどの意思決定にどう関与するのか」「専門性と、独立して意見を言う裁量のバランスはどう設計されているか」「入社後、どのようなキャリアパス(CISOやガバナンス責任者への道筋など)が用意されているか」という3つの視点を、募集を始める前に言語化しておくことをおすすめします。採用がうまくいっても、入社後に渡される権限が採用時の説明と一致していなければ、同じ問題が再び起きるだけです。


4. 経営陣・取締役会主導でなければ対応できない

内部監査・セキュリティ機能の見直しは、実務としては人事が窓口となることが多いものの、求める専門性の水準や、社内でどこまでの権限を渡すべきかの判断は、経営層や監査役会でなければ下せません。人事だけで要件や条件を決めてしまうと、最終段階で「求めていたレベル感と違う」という声が上がり、選考が振り出しに戻ってしまうこともあります。

募集を開始する前に、経営層・監査役会を交えて「このポジションにどこまでの独立性と権限を持たせるか」を言語化しておくこと。これは、採用をスムーズに進めるためだけでなく、ガバナンスを抜本的に改善するための出発点でもあります。


5. IPO準備中の企業こそ、見落とせないテーマ

特に上場準備中の企業にとって、このテーマは一段と重みを増します。IPO準備プロセスでは、内部統制の構築そのものが審査の対象となり、内部監査機能の実効性が厳しく問われます。にもかかわらず、「上場までに形だけ整えればよい」という発想で内部監査部門を設置してしまうと、上場後にガバナンスの実態が追いついておらず、後になって問題が表面化するケースも見られます。

求人においても、IPO準備プロセスにおける内部統制構築という、成長フェーズならではのダイナミックな役割を前面に出すことで、専門性の高い候補者に対する訴求力が大きく変わります。


まとめ・結論

内部監査部やセキュリティ機能が機能していない状態を放置すると、不祥事や内部統制の不全という形で、経営そのものを揺るがすリスクにつながります。背景には、市場の希少性に加えて、社内での位置付け・採用チャネルの選び方・報酬相場の把握・報告ラインや権限設計という、企業側の設計に見直しの余地があるケースが多く見られます。

私たちGlobal Career Incubator(GCI)では、内部監査・セキュリティ領域を含む専門人材のご紹介に加え、求人票の再設計から報酬相場のご相談、権限設計のアドバイスまで、経営・組織・人材に焦点を当てたご支援をしています。ニッチなポジションの採用やガバナンス強化にお困りの場合は、お気軽にご相談ください。

執筆者

株式会社Global Career Incubator 代表取締役CEO 井川真一

略歴:防衛省勤務(国家I種)およびオーストラリア国防省勤務を経てビジネスの世界へ。 不動産大手経験後、不動産ベンチャー立ち上げや国内ファンド・国内事業会社・海外テック企業での経営および採用を経験したのち、当社創業。

企業経営・採用責任者としての経験をもとに、企業の経営・組織・採用・育成と、個人のキャリア選択・能力発揮を支援。日本と世界の接点で、企業と個人それぞれの課題に向き合っています。